■1月25日(金)■16:00〜17:00
KOUTAROくんはもともとアンニュイなタイプなのだが、このところ あまり絵画や創作活動に積極的ではない.アトリエに来ても最初は机につけなくて、声を出しながら歩いていたり、クルクル廻ったり、また、いつもお母さんが持たせてくださるお気に入り写真を光に透かしたり、角度を変えたりしながら、飽きずに眺めている.私もそういう感覚遊びが好きなので、時々一緒に見たりして彼と事物を共有しつつ楽しんでいるが、PRISMは造形教室なのでそういうことばかりもしていられない(…本当は、存分に感覚遊びができる時間を与えてあげたいと思う…春になったら桜の庭に散歩に行こう…).
しかし、かと言ってKOUTAROくんは私の存在を無視しているわけではなく、私が声をかけながらしばらく待っていると、ローソクをつけ笛とお祈りを聴くために、ゆっくりと定位置にやってくるのだ.そしてローソクを消してから、その後で私にコチョコチョ遊びをしてもらうのが今のKOUTAROくんの一番の楽しみのようだ.その時の彼は心から幸せそうに見える.しかしこれは、ある程度の注意を払いながら意図的に行わなければならないという.
…私は富士で行われた「治療教育講座」の際に、バーバラ先生にKOUTAROくんのことでアドバイスを求めたことがある.そのとき先生は「彼の年齢を考えると、もうソフトタッチは止めた方がいい」とおっしゃった.「性的な快感につながるから」だという.しかし、自閉症の子どもは往往にして、触覚刺激を極端に嫌がるか、極端に好むか、のどちらかに傾きやすい.それは、触覚が自我と結びついているからで、彼らにとってはとても重要な感覚なのである( 幼児も同様のことが言える ).そして バーバーラ先生は「触るときにはある程度の圧力を加えるように」とのアドバイスを下さった.だから私は、彼の楽しみを奪わないようにコチョコチョ遊びはするけれど ●くすぐるときは歌いながらリズム的に ●時どきギュウっと力を与えながら ●そして長い時間はやらない( 何クールするかを決めておく ) …この3つを心がけている.
でも、肝心のワーク( 特に クレヨンやぬらし絵といった絵画に関して )は、今日もあまり乗り気でないようだった.それでも長い時間をかけて築いた信頼関係があるせいか、私の提示するものは、最終的には必ずやってくれる.KOUTAROくんはすごく優しいのだ.でも、優しさで「描いてあげる」で終わっては、あまりに残念だ.実際 数回前までは、ぬらし絵ではレモンイエローを好んでよく描いていたし、紫やピンクも好きだ.クレヨンもある時期から筆圧が強くなって、とても動きのあるフォルメンを描いていたのだが….しかし実は、数年前も創作への意欲がすごく高まった時期があったにも関わらず、そこから活発な展開には繋がらなかった.
年齢とともに彼の肉体も内面も確実に成長しているし、人生において創作活動をしなければダメになるといった類のものでもあるまいが、小さいときから接してきて、もともとは色彩が大好きで感情豊かなKOUTAROくんだと分かっているから、何とかしたいと思う.これは私自身の課題でもある.KOUTAROくんの覚醒した部分を信じて、これまで彼のゆっくりペースを尊重してきたが、今はこちらからのインパクトある働きかけが必要なのかもしれない.彼は粘土にはほとんど興味を示さなかった…というか、あの感覚があまり好きではないようだったけれど、粘土は良い作用を及ぼすと思う.
※KOUTAROくんの Profile は本ページ末尾に掲載.
■2月8日(金)■16:00〜17:00
今日はKOUTAROくんにとっての革命的な日だった.私にとっても貴重な体験をさせてもらえた素晴らしい日だ!…何だか最初から興奮しているが、やっぱり嬉しさを隠せない.私がこの仕事(=PRISM)を続けるにあたっては、これまでも尋常ならざるエネルギーを傾けてきたつもりだが、もちろんいつも楽しいばかりではなく大変なことも多々あったし、今もアル.しかし、子どもたちと創作活動をしながら一緒に過ごす時間の中に、しみじみとした幸せや生き甲斐を感じることのほうが断然多い.何より、子どもたちは私の最大にして最良の教師なのだということを、頭だけではナシに心身からそう実感させてくれるし、PRISMのような機会と場所を与えられたことに、私はどれだけ感謝しても足りないくらいなのだ.そして、毎日の地味なワークの繰り返しの中に、キラリッ!と輝く瞬間に遭遇したりすると、もう嬉しさが極限に達する.…「喜び」というもののもたらすエネルギーは、放出するエネルギーを補って余りあるにちがいない.
さて、KOUTAROくんは小学部の1年生からPRISMに来ていて現在は6年生だが、その長いPRISMの中でも今日は5本の指に入るほど大きな変化が起きたと言える.実は最近、創作活動にあまり積極的でなかったKOUTAROくんだったが、それは私のほうの問題もあるかもしれないと思い当たり、今日はもう一度 初心に帰って彼に寄り添い、同時にいつもより仔細に観察をした.
彼がいつも持参するお気に入りの大きな写真は3パターンあり、修学旅行で行ったというハーモニーランドのキャラクター遊具の写真2枚( KOUTAROくんはダンボやキティちゃんが大好きなのだが、たぶん彼の不安のために、それらの乗り物に一度も乗ることができなかったという )、もう1枚は、福岡タワーのエレベーターホールの写真( ここも彼の大好きな場所で、お家の方が頻繁に連れて行ってくださっているとのこと.エレベーター前の廊下に幾何学的な模様が配されている ).彼がこの写真を持ち歩く理由は、その内容への共感が一番にあるだろうが、ラミネート加工されているため光を反射する、その変化を見て視覚的な刺激を楽しんでいることが多い.窓に当てると強化ガラスの格子模様が透けて見えて、絵的に面白い効果を生み出しているな〜などと、私も感心しながら見ていた.それを見つめているときのKOUTAROくんはひたすら無心な様子.感覚に、思考や感情、身体全体までもが乗っ取られていると言ってもいいくらい.
それから、私はいつもよりも気持ちの上での働きかけを強めながら、しかしいつもの順番どおり、しっかり回数を守って くすぐり遊びをした.そして「今日のワークは粘土ですよ」と言いながら袋を開く.今日の KOUTAROくんは意外とすぐにやって来た.呼びかけに対する反応が早いな…と思いつつ、最初は粘土の塊りを渡して、ただ丸めるだけのワークをした.やはり今回はあまり嫌がらない…でも、彼は指先は上手に使えるが、手の平で丸める動作がうまくいかず大変そうだ.それで彼の手を私の手で包み込むように添えて、一緒に丸めた.♪♪ 松ぼっくりがあったとさ〜♪ たーかいお山にあったとさ〜♪♪ころころころころ落ちてきて〜♪おサルがひろって食べたとさ〜♪ という歌を歌いながら丸めた.するとKOUTAROくんの目が変わった.他の歌を歌おうとすると 「まつぼっくり!」と言う.
さて、しばらくそうして歌いながら、二人でただひたすら丸めていた…すると驚いたことに、KOUTAROくんが急に自分で粘土を袋の中から取り始めたのだ.彼にしてはすごい勢いで!そして丸めた粘土に新しい粘土を貼り付けながら、「中くらいの」「大きいの」「小さいの」と言って、他の球にもくっつけ始めた.それを手の平で時どきつぶしながら、丸めながら、またくっつけて…と、とても熱心に取り組んでいる.何しろ、とにかく全体の勢いと粘土に込める力がすごくて、これまでのKOUTAROくんとは まるで別人のようだ….そしてその集中はとても長く続き、終えたとき彼の表情には満足感が見て取れた.
それは、いかにもこれまで我慢していたものがほとばしり出たような光景でもあった.彼はほんとうはやりたかった…ハーモニーランドでも乗りたかった…自分の中にあるブロックさえ外すことができれば、やりたいことはたくさんあるにちがいない…「ぼくは世界とつながりたいんだ!」その時のKOUTAROくんは、そんなふうに叫んでいるように見えた. そして、もしもそのブロックを外すのに協力できることがあるとすれば、それはやはり真の共感と、やはり感覚体験を含む粘土や水彩などの芸術的な行為ではないかと思った.「血液の力」の助けが必要なのだ.
■2月14日(木)■13:00〜14:00
KOUTAOくんのお母さんと個人面談. 今、PRISMの生徒全員の保護者と個人的にお話させていただいている.その子の生まれたときの状況や育成歴について伺うのだが、これは子どもを知る上で非常に役に立つ.治療教育にか欠かせないアプローチの一つでもある.
■2月22日(金)■16:00〜17:00
KOUTARO
Profile
KOUTAROくんは、現在 特別支援学校の小学部6年生.小学1年生から、当時 城南でも行っていたPRISMに通い始めた.アントロポゾフィーの「気質を4つのタイプに分類する観方」からすると、KOUTAROくんは、典型的な「粘液気質」ということになるだろう(他に 胆汁気質、多血気質、憂鬱気質 というものがある).粘液気質の人はたいていポッチャリしていて(気質は概ね体型に現れているとされるのだが)、眠ることや食べることが大好き、KOUTAROくんもその例にもれない.ただし、見かけはマイペースでのんびりとしているように見えるが、内面はとてもナイーヴで、感覚的(特に 聴覚)に過敏なところがあり、周囲の環境(音や人の声など)の影響をダイレクトに受けやすいのだ.
そういう彼だから、(もちろん完全に意識的にでないことは明白だが) いろいろな防御策を講じざるをえなかったのは解る.KOUTAROくんは奇声を発し続けることがある(…彼は音感に優れており、時に、とてもきれいな音階を歌うように発していたりするのだが…).自分の殻(安心できる世界)に籠もるために、また、周囲の音を遮断するためにそういう行動をとるのだと思う.そして、自分に感覚的な心地良さをもたらすような特定の場所や事物(音、水、光、触り心地の良いものなど)以外には、周囲の全てに関心のないような素振りを見せる…彼はとても長い間そうしてきた.
でも私は、「彼の自我(=自覚意識) は、かなり覚醒している」と思っていた.なぜそうなのか?というとそれは、彼には選択と判断の能力がしっかりあるからだ.自分がしたいこととしたくないことはハッキリしているし、ハッキリと意思表示もすることができる( ただし 彼の中にトラウマ的なものがあった場合には、その意思が違う回路を通って表出することもあるが…) 私は、KOUTAROくんが感覚行動に入り込んでいるときは無理強いして止めさせたりせず、彼の様子を観察したり、その行動を共にする・・・でも、同時にこちらの望むこともちゃんと伝える…そうすると、彼は私の気持ちや意図を汲んで最終的には動いてくれる.また、彼の好きなコチョコチョ遊びをしているときの様子(始まりや終わりに対する納得の仕方)、そして(やる気がなくても)必ず取り組む創作活動の様子などを見ていると、それは何でも完全に受容してしまうタイプの障がいというのではなくて、KOUTAROくんの主体性(意志)がちゃんと働いている証拠だと感じることがある.単なる受容なのか?選択の結果なのか?そのちがいは表情や態度を見れば分かると思う.
逆に、何か自分がしたいこと、もしくはしてほしいことがあるときには、まれに「かけ引き」をしてくることもある.「かけ引き」ができるということは、それなりに高度な知性が介在している証拠なのではないかと思うのだ.
小学生の低学年の頃、彼は ぬらし絵 をとても好んで描いた.描かれた色も好きだが、絵の具が水に溶けていく様がとても好きなのだ.当時はまだ身体が小さかったので テーブルが高すぎて描きにくいため、私のひざに乗せて描いたこともある( 今はそんなことはしないが ).つづく